SF作家の死

SF作家バリントン・J・ベイリーが亡くなられたようです。
読んだ中で何かひとつをあげるとしてら「時間衝突」かな。「ロボットの魂」も捨てがたくはあるけれど、読んだときの衝撃でいえば「時間衝突」になりそうです。「時間帝国の崩壊」という作品はぜひ読みたいと思っているのですが、残念ながら未読です。


時間衝突 (創元推理文庫)

時間衝突 (創元推理文庫)


時間帝国の崩壊 (1980年) (SFノベルス)

時間帝国の崩壊 (1980年) (SFノベルス)

63.2%の憂鬱(2)

63.2%の憂鬱(1)」からの続き。


家に帰ってから、別の方法で検証をすることにした。最初に考えた確率から求める方法。
5人の場合に5分の4の4乗になるのは、組み合わせから考えるとおかしい。でもどこがおかしいのか、すぐにはわからなかった。
夕食を食べた後、そのまま居間で考えていたらようやくわかった。最初の1人が自分のプレゼント以外を選ぶ確立は確かに5分の4だけど、次からは違う。2人めは、4つの中から自分のではないプレゼントを選ぶので4分の3、そして3人目は3分の2と続く。全員が自分の物ではないプレゼントを選ぶのだから、それぞれの確率を掛け合わせればいい。


4/5×3/4×2/3×1/2


これを計算すると分子と分母で通分されて1/5になる。これは、学校で考えた組み合わせの場合の答えと同じだ。しかも、この考え方なら数が増えても成り立つ。だから一般にn人でプレゼント交換をした場合に、皆が自分のプレゼントを受け取らずにすむ確率はn分の1というわけだ。


「お風呂入りなさい。どっちでもいいから。さっきから言ってるでしょ!」
母親の声がした。どっちでもというのは僕と父親のことだろう。父親は、テーブルの向こうでビールを飲んでいる。
「どうする?」
と、ほとんど声には出さずに口の形だけで尋ねると。
「お先にどうぞ。」
とビールのグラスを持ち上げながら答えた。風呂に入る用意をするために立ち上がって部屋にいきかけたときに、
「ところで、それは? 宿題か何かかな。」
と聞かれたので、プレゼント交換で自分のを受け取らない確率がn人のときにn分の1になることだよと答えながら部屋を出た。


湯船につかりながら、問題が解決した満足感にひたっていた。何となく。昔は父親といっしょに風呂に入ったことが頭に浮かんだ。どうしてそんなことが浮かんだかを考えて、風呂の中で算数の問題というかクイズのようなものを出し合っていたのを思い出した。あの辺が今につながっているのかもしれないなと思って少ししみじみした。
プレゼント交換の問題についても考えた。全員が自分のプレゼントを受け取らない場合以外の、誰かが自分のプレゼントを受け取ってしまう場合のこと。3人の場合は1人か3人が同じ物を受け取る場合があるけど、2人が同じ物を受け取る場合は無いのはすぐにわかった。4人の場合について考えている途中で、自分が間違っていたことに気がついた。
6通り以外にも、自分のプレゼントを受け取らない場合があったんだ。
例えばA子とB子がプレゼントを交換して、C子とD子も交換した場合も、誰も自分のプレゼントを受け取らない。他の組み合わせでもそうなる場合があるはず。
風呂の中で表が描けなかったので、少し時間がかかったが3通りあることがわかった。2人づつの組に分ける方法が3通りだからだ。
あとから描いた表はこれ。この3通りと、前の6通りと合わせて9通りになる。

A子B子C子D子


入ったときとは違って暗い気持ちで風呂を出ると、居間の父親に風呂が空いたことを知らせた。
父親は、テーブルの上に置きっぱなしにしていた紙を渡しながら、
「これ、n分の1にはならないよ。」
と言った。
「そうなんだ、4人の場合で6通りじゃなくて9通りになるからね。」
暗く答えた。
「そう、3かける3で9通りだね。もしくは1+2かける3の方がいいか。」
と父親は続けたが、実はほとんど耳に入っていなかった。ここに書いたのは、あとから思い出したのと本人に確認したものだ。このときもっとしっかり聞いておけば良かったのだが、逆に自分で解答を思いついたのだからその方が良かったともいえる。


部屋に戻って考えを続けた。4人の場合の組み合わせについて再確認をしたが、やはり全部で9通りのようだった。それにしても、確率の面から考えたn分の1というのも間違っているということになるのだが、いったいどこがおかしいのかさっぱりわからなかった。時間がたって、布団に入ってからも考えていた。


ふいに「対象性の破れ」というのが頭に浮かび、すぐにどういう意味かもわかった。より正確には「独立性の破れ」とでも言うべきなのだろうけど、昼に考えていた自発的対象性の破れからの連想だろう。
これではっきりした。確率の面からの考え方にも間違いがあったことが。


(「63.2%の憂鬱(3)」につづく)