63.2%の憂鬱(4)

63.2%の憂鬱(3)」からの続き。


プレゼント交換で無作為にプレゼントを交換した場合に、誰も自分のプレゼントを受け取らずにすむ場合の確率はどのくらいか。この問題を解く手がかりを得ることが出来たのは、プレゼント交換用のプレゼントを買いに行った時のことだった。


僕は、やはりプレゼントを買いに行くという天文部の部長と一緒に、少し前にできたショッピングモールを歩き回っていた。
「そういえば、何を買うかはもう決めた?」
と聞かれて、
「小さなプレートに方位磁石と温度計が付いたものがあるんだけど、あれが欲しいなと思ってる。」
と答えたら、
「自分が欲しい物を買ってどうする。」
と、言って口の右端を少し持ち上げた彼だが、自分はポケットサイズの星座早見盤を買っていた。まあ天文部らしいプレゼントといえばそうなんだが…。


「でもまあ、プレゼント交換で自分のが当たる場合もあるといえばあるか。」
そう続けたので、今回はそれは無いようにしているみたいだと説明した。
「なるほどね。まあ確かに自分のプレゼントを貰ったら交換にならないからな。」
「そういうこと。」
「だけど、自分のプレゼントを受け取らないようにしていても、自分が買ったのと同じプレゼントを受け取る場合はあるかもね。」
「どういうこと?」
不思議に思って尋ねた。
「つまり、別の人が自分と同じ物を持ってきた場合さ。」
「なるほどね。」
と感心して頷いてると、
「だから、今からでもプレゼントを星座早見盤にするんだ。」
などと言い出した。
それは無視して、当初の予定通りの物を購入した。


家に帰ってから、同じプレゼントがあった場合の組み合わせについて考えてみた。同じ物が2つあった場合に、自分の物ではないが、同じ物を受け取る可能性はどのくらいあるのかということだ。
4人で交換した場合には、1通りしかない。A子とB子が同じプレゼントaを持ってきたとして、区別の為にa1、a2とすると次のような組み合わせだけになる。

A子B子C子D子
a2a1


「1通りということは、2人で交換した場合と同じか。」
と誰もいないのに口に出してつぶやいた。
5人の場合も考えてみたが、このときは2通り。

A子B子C子D子E子
a2a1


これは3人で交換した場合と同じ。A子とB子で交換して、残りの3人で交換しているのだからまあ当たり前だ。


「そうか、これを使えば場合分けできるかも。」
これも独り言。A子とB子のプレゼントを交換した場合に、残りの3人で交換という考え方はもともとのプレゼント交換の場合にも使えるかもというのを思いついたのだ。
A子とB子のプレゼントを交換した場合に2通りになるというのは同じでこうなる。

A子B子C子D子E子


他の組み合わせとして、最初がbで2番目をaでなく別のものにした場合を考えてみる。
まずは2番目がcの場合は、以下の3通り。

A子B子C子D子E子


dの場合やeの場合でも、それぞれ3通りなので3×3で9通り。
「9通りというのは4人で交換した場合と同じだけど、偶然なのか。それとも。」
最初にbがあるという条件なので、残りの4人だからかと思ったけどbでなくaを使った組み合わせだというのが、通常の4人の場合とは違う。
「いや、同じか。2番目がaの場合は別に考えているので、2番目にaはこない。だからbを使った場合と同じなんだ。」
つまり、a、c、d、eの4つを使った組み合わせで、aがB子のところにはこないようにした場合の組み合わせなので、これはaがB子のプレゼントだった場合の組み合わせと同じと考えることができる。


考えを紙に書いてまとめてみた。
5人でプレゼントを交換した場合に。

  • 最初がbで2番目がaの場合は2通りで、3人で交換した場合と同じ。
  • 最初がbで2番目がc、d、eの場合は9通りで、4人で交換した場合と同じ。
  • 最初がc、d、eの場合も同じ

それが何通りかという計算はこうなる。
(2+9)×4=44
つまり44通りの組み合わせで自分のプレゼントを受け取らない。


「これは一般化できそうだ。」
5人の場合の組み合わせを、3人の場合と4人の場合から計算できるので、一般化するとこう。
n人の場合の組み合わせをP(n)とすると、
P(n)=((P(n−1)×P(n−2))×(n−1))
とすれば良さそうだ。でもこれが正しいかどうか。
「他の人数の場合でやってみよう。まずは4人。」
4人の場合の組み合わせが9通りというのはもうわかっているので、それを使って検算しようと思った。
4人の場合の計算には3人の場合の2通りと、2人の場合の1通りを使えばいい。
(2+1)×(4−1)=9
9通りになる。これはいけそうだ。
「あっ、そうか。」
ここで、少し前の風呂上りに父親の言っていたことを思い出した。4人の場合に9通りなのは3×3が9だからとかいうものだ。あれは、このことを言っていたんだろうか。あの時は全く注意して聞いていなかったのが悔やまれた。


3人の場合でも一応確かめてみた。2人だと1通り、1人だと0通りだから、
(1+0)×(3−1)=2
2通りで、これも成立する。


あとは、もっと大きな数の場合だが、これを確かめるのは面倒そうだ。でも、とりあえず何通りになるのかを計算してみることにした。計算も電卓だと少し手間どりそうだったので、表計算ソフトを使ってみた。ついでに、自分のプレゼントを受け取らないという条件をはずした場合の組み合わせについても表示させた。これは階乗を計算するだけなので簡単だ。
両者の比率を計算することで、自分のプレゼントを受け取らないでうまく配れる場合の全体に対する割合を計算することもできる。これでやっと答えが出せる。
「これは、これは。」
パソコンの画面を見ながら、僕は思わず感嘆の声を上げた。


(「63.2%の憂鬱(5)」につづく)