文庫本・単行本

人力検索はてなの質問http://q.hatena.ne.jp/1143469032から。

何故ハードブックを出版してから文庫本を出すのでしょうか?

ハードブック・文庫本のそれぞれのメリット・デメリットはなんでしょう?


ハードブックという言い方もあるようですが違和感があり、ハードカバーの方が馴染み深いのでそちらを使います。ただ、文庫に対する単行本という意味だと、表紙のやわらかいソフトカバーというものも入るわけで、そういう場合はハードカバーでも違和感があります。でもそういうことを言い出すと単行本という呼び方にしたところで、全集などに対して一冊一冊を単独に出版した物のことのようなので、本の大きさや表紙の固さとは関係ないわけです。

「ハードカバーと文庫」というタイトルで、作家の森博嗣http://blog.mf-davinci.com/mori_log/archives/2006/01/post_209.phpに書いたものを以下に一部引用します。

 ハードカバーが出てから通常3年ほどすると文庫になる。ノベルスは2年ほど経ってから、が普通らしい。編集者に対して、「望まれているのだから、文庫をもっと早く出してはどうか」と話すと、「それは読者を裏切ることになる」と言う人がときどきいる。どうして、そういう発想になるのか非常に不思議だ。つまり、すぐに文庫になるとハードカバーを買った人が損をする、と考えるらしい。
 その程度の優越感でハードカバーを買っているのだろうか? それとも、買った本を売る場合のことを考慮しているのだろうか?
 本が好きな人、手元に置いて大事にしたい人はハードカバーを買えば良い。ノベルスが好きな人もいるだろう。しかし、大半の人は、小説を読むのには文庫で充分だと考えている。
 一番良いのは、最初から3つを同時に出すことだ。外国ではペーパバックは同時に出る。別に特殊なことではない。それがごく普通の考え方だろう。もちろん、そうなった場合には、もう少し価格が接近するものと思われる。 
 もう一つ考えるのは、同じ作品を複数の出版社から同時に出す手はないのか、という点である。出版社の人は口々に「少しでも沢山の人に手に取ってもらいたい」と正義を主張するが、そのわりには、それが自分たちの部署において、という限定でしか考えない。
 一般に、ハードカバーを作る部署と、文庫を作る部署は異なっている。担当者も違う。だから、自分たちの部署の成績を考えれば、同時に出すなんてもってのほか、という考えに当然なる。たとえば、雑誌の編集者は「まず連載をして」と提案するし、文芸書の出版部にいる人は「是非書き下ろしを」と言う。理由なんてない。作品や読者のメリットではなく、自分の立場上のメリットに基づいて提案しているだけだ。これでは説得力がない。


外国ではハードカバーとペーパーバックが同時に出るというのを裏付けるものは無いのですが、同じ本のハードカバーとペーパーバックが並んで売っているのは見たことがあります。

また、http://eunheui.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_bbee.htmlで、ニューヨークタイムズ紙の書評欄から、純文学作品をハードカバーではなく、最初からペーパーバックで出版する動きがあると伝えています。これは日本でいえば文庫書き下ろしのようなものでしょうか。

もちろん今までにも「ペーパーバック・オリジナル」で世に出た作品もあるが、たいていはハードカバーのほうが権威があるように見えるし印税も高い(ハードカバーの印税は15%、ペーパーバックの印税は7.5%が相場だとされている)ということで作家にはハードカバーでの出版のほうが好まれてきた。出版社側から見ると、ハードカバーの場合、卸価格は小売価格の約半額で、そのうち40%が生産などのコストにあたる。つまり出版社の利益は小売価格の15%程度となる。ハードカバーのほうが単価も高いので、一冊あたりのもうけは大きいが、返品が多いとこの利益も消えてしまう。ペーパーバックのほうが、まだ売れるかもしれないと思って書店が留め置く率が高いこと、そしてペーパーバックの売れる総量がハードカバーの倍ぐらいになることから、あまり知られていない作家などの場合は、ペーパーバックのほうが有利になる、という計算らしい。

ニューヨークタイムズ紙の書評欄のアドレス:http://www.nytimes.com/2006/03/22/books/22pape.html?ei=5088&en=aa5ab88bd3519dff&ex=1300683600&partner=rssnyt&emc=rss&pagewanted=all


日本でも、ハードカバーを出さずに直接文庫になることも多いと思います。逆に、ハードカバーから新書になって、それから文庫になるという三段変化を遂げる本もあります。
手軽さを考えると文庫のメリットは大きいのですが、ハードカバーの存在感のようなものもあると思います。人力検索はてなでもこんな質問が出ていました。

文庫本やペーパーバックを革張りや布張りのハードカバーに改造する方法を教えてください。

http://q.hatena.ne.jp/1128050682


また、シリーズ物で最初は直接文庫だったのに、続きが単行本からになってしまうなんてこともあるようだ。